訳者より
以下の文章は、「婦人に関する科学」誌(国立社会・人文科学センター 家族と婦人研究センター発行 1998年第2号 通算32号)からの抜粋仮訳(原文はベトナム語)です。婦人労働者の状況を知る手がかりとなるとともに、低年齢労働者や職業病に関しても若干触れられておりベトナムの労働者の実態の一端を伝えていると思います。この文章は、全国の1294企業を対象に1995年から1997年にかけて労働環境研究センターが実施した調査にもとづいています。(著者は当該機関に所属)
グエン・ティン・ニエム(Nguyen Tin Nhiem)
現在の各企業における労働条件の実状はとても深刻である。我が国の衛生許可基準は世界に比べて全て低く設定されているにもかかわらず、企業のほとんどはこの基準を上回っており、ひどいことに多くの企業は何倍も上回ってさえいる。
もっとも広範な汚染は塵である。塵は、塵肺や他の気管の病気を引き起こす原因となる。調査結果によると、毎年我が国では経済活動により19.23万トンの塵が排出されると見られている。そのうち、工業分野だけで16.25万トン、全体の84.5%を占めている。注目すべき業種は、火力発電 2.73万トン、セメントを除く建設資材製造 2.54万トン、機械・金属 2.47万トン、セメント 1.39万トン、セルロース・紙 1.19万トン等々である。電気では金額にして百万ドン(1989年価格)を生産するために39.4kgの塵を排出する。セメントを除く建設資材製造では6.72kgである。機械・金属では13.2kg、セメントは48.7kg、セルロース・紙は27.8kgなど。
企業の64.8%は就労現場における空気中の塵の問題を抱えている。塵の汚染度の高い業種は、陶磁器・ガラス、建設資材製造および紡織・皮革・縫製である。そのうち、企業の53.58%は塵濃度に関する衛生許可基準(基準はSiO2の量に応じて2 〜 6 mg/立方メートル)を上回っている。基準値を1〜5倍上回っている企業は8.72%、6〜10倍が7.48%、11〜30倍が14.95%、30倍超が22.43%に上る。労働過程で塵の影響を受ける女性労働者の比率は、非工業分野で働く女性労働者数の44.36%を占める。(訳注:非農業分野の誤りか?)
以下は現在空気中の塵濃度がもっとも高い労働現場の例である。チャンケイン・ハイフォン炭化カルシウム工場の生石灰破砕現場の1300 mg/立方メートル。デオナイ石炭鉱山の掘削機械の使用で760 mg/立方メートル。ニンビン第2交通建設資材製造公司の手作業によるセメント包装が690 mg/立方メートル。ハノイ第238道路管理地区の橋梁保全・修理で284 mg/立方メートル。ハイフォンセメント工場のクリンケ採取で222 mg/立方メートルなど。以上にあげた例の中で最後の3業種は女性労働者の比率がとても高い。
第2の汚染要素は騒音である。騒音は職業的聴覚障害や精神的緊張を引き起こす原因である。企業の64.18%は就労現場で騒音問題を抱えている。騒音汚染の高い業種は、印刷・セルロース・紙、化学物質・ゴム、紡織・皮革・縫製および建設資材製造である。そのうち、57.63%の企業は衛生許可基準値を上回っている(基準は90dBA)。基準値を1〜5dBA上回っている企業が10.28%、6〜10dBAが19.94%、11-30dBAが25.23%、30dBA超が2.18%である。
現在、騒音のもっともひどい就労場所はタイグエン3-2機械工場の金属圧延現場の141dBA、第77交通土木公司の手動ガス圧縮機による岩石穿孔の120dBA、ハノイ19-5紡織公司の織布における120dBA(特に女性労働者の職場である)、ホーチミン市漆・プラスチック公司の切断機による管切断の111dBA(表1)。
表1:業種別にみた企業の塵と騒音による汚染程度 (%)
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機械・エネルギー |
化学・ゴム |
建設資材 |
林産加工 |
印刷 |
陶磁器・ガラス |
紡織 |
食糧・食品 |
|
- 衛生許可基準値を上回る塵 |
48.0 |
48.7 |
86.7 |
66.7 |
90.0 |
81.2 |
63.2 |
68.5 |
63.82 |
1-5倍 |
4.11 |
10.8 |
- |
- |
30.0 |
36.4 |
26.3 |
- |
10.04 |
6-10倍 |
5.48 |
- |
13.3 |
- |
30.0 |
18.2 |
10.5 |
15.8 |
9.08 |
11-30倍 |
11.0 |
16.2 |
6.67 |
60.0 |
30.0 |
9.09 |
15.8 |
42.1 |
21.95 |
30倍超 |
27.4 |
21.6 |
66.7 |
6.67 |
- |
18.2 |
10.5 |
10.5 |
22.74 |
- 衛生許可基準値を上回る騒音 |
67.1 |
51.4 |
73.3 |
66.7 |
80.0 |
9.09 |
68.4 |
47.4 |
61.32 |
1-5dBA |
13.7 |
8.11 |
6.67 |
13.3 |
20.0 |
- |
15.8 |
5.26 |
11.00 |
6-10dBA |
26.0 |
21.6 |
- |
40.0 |
30.0 |
9.09 |
21.1 |
42.1 |
24.15 |
11-30dBA |
21.9 |
21.6 |
66.7 |
13.3 |
30.0 |
- |
26.3 |
- |
24.09 |
30dBA超 |
5.48 |
- |
- |
- |
- |
- |
5.26 |
- |
2.08 |
毒性のある化学物質に関しては、毎年、我が国の経済活動により1.82万トンのSO2、1.02トンのNO2、1.08トンのCO2などが排出されている。金額にして百万ドン(1989年価格)を生産するために、セメント業界はSO2 8.2kg、NO2 4.7kg、CO 2.2kgなどを排出した。特に生体蓄積性金属の我が国の大気中への放出は年間55.0トン、水へは5.3トン、地中へは219.1トンに及んでいる。これは生活環境に対する重大な脅威である。
現在、企業の50.47%が衛生許可基準を上回る空気中の毒性気体の問題を抱えている。
比率の高い業種は、化学物質・ゴム、印刷・セルロース・紙、紡織・皮革・縫製および陶磁器・ガラスである。そのうち、基準値を1〜5倍上回るのは53.52%、6〜10倍が19.27%、11〜30倍が16.75%、30倍以上が10.67%である。特に著しいのが、ヴィンフー蓄電池工場の蓄電池極製造工程:Pbガスが180倍、ラムタオ・リン酸公司(ヴィンフー)のリン酸調合:HFガスが60倍、木材を浸し保管する工程:クレゾールガスの52倍など。注意すべきは、就労場所で毒性のガスの影響を受ける女性労働者の比率が非農業分野に働く女性労働者総数の15.45%に及ぶことである。
他にも、企業の90.34%が衛生許可基準を上回る高温の問題を抱える。そのうち、就労時にきわめて高温にさらされているのは、ティエンハーイ絶縁ガラス工場(タイビン)におけるガラス溶解工程の71度、「サイゴン」ホテル(ハノイ)のキッチンの50.3度、ザサン鋼精錬・製板工場(バックターイ)の50度などである。
企業の14.33%は、振動の身体への影響という問題を抱えている。典型的な例としては、ホーチミン市ハーティエンセメント工場の手動式ガス圧縮機による岩石穿孔の19.44cm/s、バクダン造船工場(ハイフォン)の手動式ガス圧縮機による舗装、洗浄の17.49cm/sなどがある。さらに、企業の3.43%は毒性微生物の問題、0.62%は放射線の問題を抱えている。(表2)
表2:業種別労働環境汚染企業
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機械・エネルギー |
化学・ゴム |
建設資材 |
林産加工 |
印刷 |
陶磁器・ガラス |
紡織 |
食糧・食品 |
|
塵 |
58.9 |
75.7 |
86.7 |
66.7 |
90.0 |
100 |
84.2 |
89.5 |
76.65 |
毒性ガス |
46.6 |
54.1 |
53.3 |
53.3 |
90.0 |
72.7 |
73.7 |
47.4 |
57.23 |
騒音 |
71.2 |
75.7 |
73.3 |
66.7 |
80.0 |
18.2 |
73.7 |
52.6 |
67.74 |
放射線 |
1.37 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
0.35 |
振動 |
23.3 |
8.11 |
- |
26.7 |
- |
- |
- |
- |
10.11 |
微生物 |
- |
- |
- |
20.0 |
10.0 |
- |
- |
5.26 |
3.50 |
熱 |
93.2 |
86.7 |
86.7 |
100 |
90.0 |
100 |
100 |
94.7 |
93.76 |
労働環境が著しく劣悪なところほど非常に手工業的で、重労働そして低賃金というように労働条件も悪い。例えば、ニンビン第2交通建設資材生産公司において、セメント製粉・配合作業(手動炉)は50人の労働者中38人が女性である。勤務時間中に、最高103dBAの騒音、塵濃度340mg/m3に耐え、それぞれの労働者はスコップで15トンの原料を砕石機に運搬する車に載せなければならない。また、砕石工程では石を篩にかける仕事は全て女性が担当している。彼女たちは101dBAの騒音、251mg/m3の塵濃度という条件で、数千回(1日の作業時間中)スコップで石をすくうために反復して90度体を傾けつづけなければならない。1日の作業時間中に3000キロカロリーを必要とする労働はめずらしいことではない。たとえば砕石作業のように、イエンク石開発企業の砕石は1日の作業時間中3000kcalを必要とし、バックタイのドンヒ林場の製材は3000kcal、クアンニンガソリン企業のガソリン・石油タンク修理は3000kcal、タイグエン建設運輸機械企業の車両修理は3000kcalをそれぞれ必要とする。
その他で注意すべきは非国営企業で子供・高齢者を使用する状況である。15歳未満の労働者の比率は全企業の全労働者中で0.55%を占めていた。注意すべきは、食糧・食品加工、陶磁器・ガラスおよび化学・ゴムの各業種である。子供の就労者の中では女子の比率が高い。多くの女子の働いている業種は、食糧・食品加工、紡織・皮革・縫製および印刷・セルロース・紙である。多くの男子の働いている業種は、化学・ゴム、陶磁器・ガラスおよび機械・エネルギーである。高齢者は全労働者の1.14%を占めており、主な業種は、建設資材、機械・エネルギーと林産物加工である。幼年労働者とは反対に高齢者のほとんどは男性である。もっとも多いのは陶磁器・ガラス、建設資材および機械・エネルギーである。非国営企業におけるこのような就労年齢外労働者の発生は労働保護行政を困難にしている。特に、労働条件が悪い場合、および重労働、有害、危険業種においてである。さらには、企業の労働時間はかなり長い。国営企業で働く労働者総数の15.36%、非国営企業で働く労働者総数の14.88%は日常的に時間外勤務をおこなわなければならず、国営企業で働く労働者総数の11.13%、非国営企業で働く労働者総数の6.37%は常に3交代勤務を強いられている。労働者の平均就労は年間285労働日である。そのうち、国営企業では288日、非国営企業273日、外資系企業は298日である。
企業の劣悪な労働条件の悪影響は、とても深刻といえよう。現在、全国で約1500の重労働、有害、危険として分類され、就労時間を減らし、職業年齢を引き下げなければならない業種、業務がある。70.06%の企業は少なくとも1種類以上の重労働、有害、危険として分類される業種、業務を含んでいた。国有企業では90.26%、非国有企業では59.39%である。これらの業務をおこなう労働者は全労働者中の50.32%である。そのうち、重労働、有害、危険分野で働く女性労働者は全女性労働者中の20.67%で男性に比べると76%である。特に8.66%の企業は女性労働者の使用を禁止している業種で女性労働者を使用している。もっとも比率が高いのは化学・ゴム、建設資材、機械・エネルギーおよび陶磁器・ガラスである。(表3)
表3:重労働、有害、危険分野で働く女性労働者比率(業種別)
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機械・エネルギー |
化学・ゴム |
建設資材 |
林産加工 |
印刷 |
陶磁器・ガラス |
紡織 |
食糧・食品 |
|
企業比率 |
95.9 |
100 |
100 |
100 |
100 |
90.9 |
79.0 |
89.5 |
94.4 |
女性比率 |
11.0 |
39.1 |
28.6 |
17.2 |
11.8 |
8.53 |
20.1 |
24.1 |
20.67 |
平均に対する女性の比率 |
0.67 |
0.86 |
0.91 |
0.71 |
0.63 |
0.48 |
0.78 |
0.87 |
0.76 |
改善方法として、44.70%の企業のみが他の作業工程への異動を予定し、2.52%が研修派遣を予定している。残りの企業は「消極的な」対策を予定している。それは、現物による補償が18.41%、1日の作業時間の短縮が14.67%、解雇が10.92%である。
表4:女性労働者の使用禁止業種で女性労働者を雇用する企業比率と改善方法(業種別)
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|
機械・エネルギー |
化学・ゴム |
建設資材 |
林産加工 |
印刷 |
陶磁器・ガラス |
紡織 |
食糧・食品 |
|
企業比率 |
12.3 |
19.1 |
13.6 |
- |
- |
8.82 |
- |
5.00 |
8.66 |
改善方法 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
解雇 |
22.5 |
- |
- |
- |
- |
100 |
- |
- |
10.92 |
異動 |
55.0 |
56.8 |
50.0 |
- |
- |
100 |
- |
100 |
44.70 |
研修派遣 |
10.0 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
2.52 |
時間短縮 |
32.5 |
43.2 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
14.67 |
補償 |
22.5 |
43.2 |
50.0 |
- |
- |
- |
- |
- |
18.41 |
調査によれば、企業の26.48%では職業病にかかった労働者が社会保険の適用を受けたことがわかっている。職業病にかかった女性労働者の比率は0.774%である。そのうち、1994年に発見されたものが87.07%を占めており、労働者の職業病診断・治療業務が十分でないことを証明しており、実際の職業病罹病者比率はかなり高いものとみられる。女性労働者のもっとも多い職業病は塵肺で0.475%、次に皮膚炎0.149%、職業的聴覚障害0.136%などである。とても多くの女性労働者は一時に多くの病気にかかっている。ひどい場合では、ニンビン第2交通建設資材生産公司のある女性労働者は3年勤務しただけで塵肺と聴覚障害を患っていると思われる。女性労働者の職業病罹病率の高い業種は、陶磁器・ガラス1.19%、林産物開発・加工0.89%そして化学・ゴムの0.40%である。(表5)
表5:職業病罹病女性労働者(病気・業種別)
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|
機械・エネルギー |
化学・ゴム |
建設資材 |
林産加工 |
印刷 |
陶磁器・ガラス |
紡織 |
食糧・食品 |
|
塵肺 |
0.67 |
2.33 |
19.7 |
8.10 |
- |
11.9 |
1.64 |
- |
4.75 |
鉛中毒 |
- |
0.27 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
0.04 |
皮膚炎 |
0.06 |
0.69 |
8.76 |
0.81 |
- |
- |
0.06 |
1.60 |
1.49 |
TNT中毒 |
- |
0.14 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
0.02 |
聴覚障害 |
0.48 |
- |
8.45 |
- |
- |
- |
1.37 |
- |
1.36 |
ヴィールスによる炎症 |
- |
0.55 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
0.08 |
合計 |
1.22 |
3.97 |
36.9 |
8.91 |
- |
11.9 |
3.07 |
1.60 |
7.74 |
(中略)
表6:女性労働者の作業現場(業種別)
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| |||||||
|
機械・エネルギー |
化学・ゴム |
建設資材 |
林産加工 |
印刷 |
陶磁器・ガラス |
紡織 |
食糧・食品 |
|
屋外 |
29.7 |
3.33 |
23.4 |
41.7 |
4.16 |
6.95 |
1.13 |
17.5 |
18.33 |
狭い |
9.04 |
3.75 |
11.1 |
6.54 |
0.53 |
1.35 |
0.34 |
0.84 |
5.21 |
荒廃 |
0.60 |
- |
3.80 |
3.26 |
- |
0.46 |
0.27 |
0.03 |
1.06 |
湿度が高い |
5.34 |
1.90 |
18.5 |
6.46 |
- |
3.98 |
0.21 |
1.23 |
5.05 |
すべりやすい |
5.21 |
1.63 |
47.0 |
5.91 |
- |
2.83 |
- |
2.29 |
8.50 |
風通しが悪い |
4.97 |
1.23 |
6.78 |
6.95 |
0.38 |
1.82 |
0.43 |
0.13 |
3.27 |
暗い |
1.99 |
0.16 |
7.06 |
5.21 |
- |
0.39 |
- |
0.78 |
2.11 |
その他 |
0.28 |
- |
- |
- |
- |
- |
1.54 |
- |
0.28 |
(中略)
表7:女性労働者の労働手段(業種別)
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| |||||||
|
機械・エネルギー |
化学・ゴム |
建設資材 |
林産加工 |
印刷 |
陶磁器・ガラス |
紡織 |
食糧・食品 |
|
手作業 |
61.0 |
46.6 |
53.6 |
43.4 |
17.3 |
48.0 |
21.7 |
41.6 |
45.06 |
半機械化 |
24.9 |
35.8 |
30.0 |
36.2 |
57.0 |
26.2 |
63.7 |
32.2 |
36.58 |
機械化 |
11.4 |
12.6 |
15.6 |
20.4 |
15.1 |
25.0 |
12.4 |
16.6 |
14.81 |
自動化 |
2.71 |
5.01 |
0.45 |
- |
10.5 |
0.76 |
2.24 |
9.53 |
3.55 |
要検査 |
7.03 |
2.54 |
7.28 |
1.62 |
2.14 |
1.41 |
1.89 |
0.23 |
3.74 |
許可証期限有効 |
92.3 |
87.8 |
56.6 |
44.7 |
8.62 |
15.5 |
12.8 |
28.4 |
54.71 |
(後略)
略した部分は、機会をみて訳出する予定です。