「ベトナム農業」紙25号より仮訳
(“省”は日本の県に相当する行政区。省の中には、郡に相当する“県”がある:訳注)
1.
われわれはゲアン省の中山間地の1つである、ジェンチョウ(Dien Chau)県ジェンラム(Dien Lam)村を訪ねた。現在、飢饉が危惧されている地域である。この1年間、ジェンラム村では天の恵みの雨は1滴も降らなかった。舞い上がる砂埃すらなく、固まった土がみな石のようになっていた。その石はすでにひび割れている。田畑には人影がなかった。
ジェンラム村の稲の作付け面積は、2期作合計で625ヘクタール。98-99年冬春作の初めから50ヘクタールしか作付けできておらず、残りの土地はトウモロコシやサツマイモに転作した。が、植えた稲も干ばつのため枯死した。トウモロコシを植えた200ヘクタールのうち、100ヘクタールは全く収穫できなかった。残りの100ヘクタールは2回の播種をしたにもかかわらず、赤茶けてねじ曲がった葉が3、4枚、かろうじて生えてきたにすぎない。サツマイモを植えた200ヘクタールの土地には、3カ月たってもイモが成長しないまま畝の上に転がっているだけだ。こうしてジェンラム村は125ヘクタール、2期作分の水田を放棄せざるを得なくなったのだ。トウモロコシやサツマイモに転作した土地も、運を天にゆだねている。
ジェンラム村では今や、田畑にやる水のことを案じる者はほとんどいない。そんなことは考えられなくなったからだ。お天道様の為すがまま!一番心配なのはやはり人間と家畜のための生活用水の確保である。100万立方メートル以上の水を貯めることのできるジェンラム村の7つの貯水湖は、この最後の1滴まで使い尽くされた。残る2つのドンズー、ボウザーA(貯水量500万立方メートル以上)の最大規模の貯水湖は、現在では小さな水たまりがいくつか残っているだけになった。住民は水をポンプでくみ出したり田畑に水を引いたりすることをさせず、牛や水牛に飲ませる水を何とかして残そうとしている。
ジェンラム村には各戸に必ず井戸があるが、今では90%以上の井戸が涸れてしまった。最も深刻なのはバックラム地域で、ここの住民は遠くまで水をもらいに(あるいは買いに)行かなければならない。皆でお金を出し合って井戸を掘ったが、35メートルの深さまで掘っても水が湧き出たのはたった1、2個にすぎない。さらに深く掘った家もあったが、2、3メートル掘り下げたところで赤く濁った(=カニ味噌色の)水がわずか50センチほど湧いただけであった。水浴びすることを誰も考えなくなって久しい。
ジェンラム村での渇きの後には飢えがやってくる。村の人民委員会(日本の村役場に相当する行政機関:訳注)委員長ドゥ・スアン・ホアイ氏は言う。
「1998年のジェンラム村の秋作はひどい凶作でした。村全体でわずか150トン、例年の収量の5%の食糧しか収穫できませんでした。続く冬作も凶作で、収量は半分以上減りました。99年の春作も、言うまでもなく凶作でしょう。」
ジェンラム村には2千378戸・1万3000人が住んでいる。委員長はジェンラム村の飢えの状況について概算してくれた。日々の食事が3食十分にとれない家庭が630戸、3食十分にとれないことがあり、6月まで食糧の不安を抱えている家庭が900戸・・・。1000人の住民が一時離村届けを出しており、その多くはタイグェン地方(Tay Nguyen: 中部の山岳地帯:訳注)の各省に出稼ぎに行く。
2.
ジェンラム村は、クィンリュー、ジェンチョウ、ギーロック等、平野部の各県の中山間地に位置する何十もの村の中で、飢饉に見舞われている1つの村の典型に過ぎない。ゲアン省の山岳地帯の各省では、飢饉の状態はさらにすさまじくなっている。山岳地帯の10県では、ほとんどすべての耕地が不毛となった。端境期の困窮はさらに深刻である。98年3月末時点の概算ですでに、ゲアン省全体で約37万人の住民が食糧不足に陥っており、最もひどい状態はやはり山岳地帯に集中していた。それに加えて生活用水の確保はきわめて逼迫した問題になっている。現在までの報告によれば、ゲアン省の中で100万人近くの住民が生活用水の不足を訴えており、そのほとんどが山岳地帯や海岸沿いに集中している。特にクィホップやギアダンでは、ディン河が涸渇した上、亜鉛の開発と採掘のせいで上流が汚染されたため、数10もの村の住民が飲料水の不足に苦しみの声をあげている。
3.
干ばつはあちこちで飢饉を引き起こしているが、ゲアン省は平野部に位置する2つの“米倉”(ナムダン〜フングェン〜ギーロックとドールォン〜ジェンチョウ〜イェンタイン〜クィンリュー)と、南北の農業用水路やラム河の水源に頼っている。しかしラム河の水は史上例を見ないほど涸渇している。ナムダン、ドールォン、コウヒェウ、ギアダンなど地域を流れる河では、住民が普通に歩いて渡れる部分もある。ドールォン、ナムダンの農業用水路の取水工は、かつてないほどに低くなった。またほとんどすべての貯水湖が涸渇している。ブックマウ湖のような大きな湖でも、6千180万立方メートルの容積に対し貯水量は600万立方メートルしか残っていない。タンキーとギアダン2県に水を供給するケーダー湖も、1600立方メートルに対し貯水量は125立方メートルだけだ。ディンドゥー湖、ボウザー(ジェンチョウ)湖のように、ずっと以前に涸渇してしまった湖も多い。作期の初めにゲアン省の人民委員会は、8万ヘクタール中2万ヘクタールの水稲をトウモロコシに転作するという政策を掲げた。また省の干ばつ対策指導委員会が急遽、設立された。省人民委員会の委員長はトウモロコシへの転作地域に対していくつかの具体的措置と援助体制を打ち出し(毎年の種苗補填金政策に加えて)、転作水田1ヘクタールあたり15万ドン(1ドン=約0.01円:訳注)の補助金を支給することを決定した。また石油ポンプ42基購入のための5億400万ドン、電気ポンプ12基購入のための1億6千800万ドンを支給し、付加電力(240万kw/h)使用のための8億8千万ドン、オイル200トン購入のための8億ドンを援助する計画を省が承認した。また省の農業銀行は干ばつの被害を受けた地域に対して、30基のオイルポンプを購入するための資金を低金利で優先的に貸し付けをするなど、あらゆる機関が長期的干ばつ“戦略”に備えて、冬春作の収穫を助けようとしている。しかし省をあげてのこうした努力も、わずか一部を救済しているにすぎない。3月も終わろうとしているが、耕作地が乾ききっているために7千437ヘクタールのトウモロコシ、420ヘクタールの落花生、7千20ヘクタールのサツマイモ、2千ヘクタール以上のサトウキビが作付けできないまま残されている。
ゲアン省の土地は、間もなく雨が降る希望すらなくなるだろう。暑さと埃、照りつける日差し。ラオス風が吹いて・・・。
ゲアン 99年3月下旬
+ ゲアン省は労働ー傷病兵ー社会局への7億9千875万ドン(コメ225トンに相当)第2回拠出を行い、端境期における農民各戸の飢餓救済活動を組織した。また1999年1月、山岳地帯10県へのコメ165トン第1回供給を行った。 + ゲアン省人民評議会は緊急会議を開催し、当面の措置として干ばつ地域に対し65億7千万ドンを支援することを決定した。 |