「ベトナムの社会・経済開発」 1997年冬 No.12
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NGUYEN PHUONG THAO
家族・女性研究センター
ベトナムの過去10年を越える改革過程(ドイモイ)は8.2%の平均経済成長率(1991〜1995年)という社会・経済的成果をあげるに至り、段階的に人々の生活条件の改善をもたらした。農業生産は、総生産高で5.8%(1991〜1995年)の平均増加率、120万トンの食物生産を記録し、安定して成長した。食物生産成長率は、人口増加率を上回り、1人あたりの食物生産高を1991年の324.9kgから1995年の372.8kgに押し上げた。しかし、90年代中期まで、人口の約80%が居住するベトナムの農村で、その世帯の20%は貧困と分類され、その中で、女性が近年社会学的調査によってもっとも困難を被っている人々の中に位置していることが明らかにされてきた。この報告においては、1990年代における農村の貧困女性の役割と位置について検討することにしたい。
1. 農村の貧困女性とは?
1.1. 貧困と貧困世帯の概念
ベトナムの貧困問題が研究されてきた際、ベトナムの諸政府機関と国際機関によって様々な貧困の定義が与えられてきた。これらの定義は、食糧供給量、財産、収入、そして一定の指標(学校からのドロップアウト、深刻な栄養失調、または収入と結びついた財産)というような質的・量的な基準をカバーしている。
以上の基準から、ベトナムの農村の貧困な人々が以下のほとんどまたは全部に該当することがいえるだろう(注1)。
- 3〜6カ月の食料不足
- 資本の不足
- 土地の不足、または痩せた土地
- 役畜の不足
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人手不足(世帯において被扶養者より少ない)(これらの世帯ではしばしば女性によって率いられており、多くの子どもや年老いたまたは病気の人々を抱える)
- その世帯の子どもあるいは母親が栄養失調
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その世帯の子どもが低学歴で、学校に行ったことがない、または低年齢時に学校からドロップアウトしている
1992〜1993年におこなわれた住民生活水準に関する調査(注2)、1993年の貧富格差に関する調査のような広範囲の調査(注3)は、世帯を分類するための月1人あたりの収入の基準をより明確にした。それによると、月あたり50,000ドン以下の1人あたりの収入の農村世帯は貧困とされる。
上記の2つの調査では、農村の全世帯の20%が貧困とされ、貧困世帯の90%は農村、とりわけ、北部山岳地帯、中北部の沿岸地区と中部高原に集中している。北部山岳地帯と中部高原の少数民族の貧困世帯は高いパーセンテージを示しており、多数を占めるベト族におけるよりも2、3から5倍に至る倍率に達する。
1.2. 農村の貧困世帯
農村の貧困女性の生活を調査する際に、我々は女性が構成員となっている農村の貧困世帯に焦点を当てないわけにはいかない。
注)
1:ADUKI社:"The Question of poverty in Vietnam", Chinh Tri Quoc
Gia (National Politics) Publisher, Hanoi, 1995, p.27
2:この調査は、国家計画委員会と統計総局によって4800世帯に対して実施された。
3:統計総局によって91732世帯に対して実施された。
4:Nguyen Van Tiem、"Rich and Poor in Present-day Countryside",
"Nong Nghiep"(Agriculture) Publisher, Hanoi, 1993, p.34
1.2.1. 農村の貧困家族の規模
住民生活水準に関する調査によれば、1993年にはベトナムの農村における貧困世帯の数は1150万世帯全体の20%に達していた。そして、貧困世帯の平均世帯人数は、富裕家庭の平均が4.46人であるのに対して、5.36人である。貧困家庭における0から9歳までの年齢人口はもっとも高い比率を占めていた。この比率は収入が高くなるにつれて逆比例して減少する。その反対に、60歳のグループの数は貧困世帯において最も低くなっている。
1.2.2. 収入
住民生活水準における調査は、農村の貧困世帯は平均2,585,000ドンの収入を得ており、その内、59.28%は農業と林業生産から来ており、15.31%は非農業生産からのもので、22.58%は就労からのものである。余裕家庭の平均収入は農村の貧困家庭の平均収入と比べて3.1倍高く、その収入の52.13%は非農業経済活動から来ていた。
しかしながら、貧困家庭の平均収入は、低いとはいえ、徐々に上昇している。1991年には11.03%(対1990年比)、1992年には27.78%(対1990年比)と上昇し、1993年には4.6倍であった。着実に、貧困家庭の数は減少し、1992年の28.2%から1993年の20%に、そして1994年には17.81%となった。
1.2.3. 生産条件
- 土地:
1世帯は平均して、771平方メートルの住居および住居に付属した庭・畑を持ち、2771平方メートルの農業地を持つ。1人あたりの土地面積はたったの447平方メートルである。メコンデルタの貧困農家世帯の多くは耕作地を持たず、他人に彼らの労働を提供することによって生計を立てている。紅河デルタにおける貧困世帯は高い人口密度と狭い土地のために他のどの農村地方よりも土地が少ない。農業地の88.5%だけが米作され、他の土地は1年生または多年生工芸作物を栽培されている。貧困世帯における土地使用係数は低く、年間1〜2回にしか達しない。
- 他の生産手段:
平均的には、10世帯につき1頭の役畜と3ヶの鋤、まぐわを所有しているのみである(注1)。手動脱穀機、殺虫剤噴霧器、そして荷車のような簡単で安価な道具を持っている世帯もとても少ない。貧困世帯にとっては、農作業は広範囲に渡って手作業でおこなわれ、それ故、低生産性で低収入となっている。
- 労働と労働の使用:
裕福な家庭と比較すると、貧困家庭は人手が不足していない(平均的に3.6人で、裕福な家庭が3.3人)。しかし、彼らの労働の質と労働日数は全く異なっている。裕福な家庭にとっては、中学・高校の学歴を持つ労働者の数が63%を占め、労働日数の平均値が240〜260日に達している。他方で、貧困家庭では、労働の24.3%は文盲で、小学校の学歴が53.6%を占めている。労働日数はとても少ない。年間88日である。
- 生活条件
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住居は常に重要な指標であり、家庭の生活水準を反映する。貧困世帯の51.41%は、粗末な材料でできた小屋または一時的住居に住み、8.32%は他人の住居に住まざるをえない。
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便所、井戸と風呂の利用もまた、ある範囲、生活水準に影響する。貧困世帯は川、湖または小川の水を利用する比率が、調理で22.61%、洗いものおよび入浴で42.07%に及んでいる。3分の1以上の貧困世帯は便所や屋外便所を持たず、貧困家庭で風呂を持つものは7.1%しかいない(注2)。これらの数字は、貧困家庭の女性がとても貧しい生活条件を被っている、我々の援助が必要な対象であることを示している。
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照明:貧困家庭の66.03%が灯油ランプを使用している。富裕家庭では27.03%である。
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もう一つの重要な生活水準の指標は、器具、家具そして他の必需品である。
ラジオ |
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諸種のタンス |
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机、椅子、ソファ |
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壁掛け時計 |
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白黒テレビ |
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ラジオカセット |
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扇風機 |
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自転車 |
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カラーテレビ、バイクやカメラのような高級品は貧困家庭においては持つ余裕がない。
上記の全ての事実は、ベトナム農村の貧困家庭が物質的にも精神的にも恵まれない生活を送っていることを明らかにする。
注)
1. Ibid. p.34
2. 婦人連合による数字
2. それらの家庭の貧困の原因
ベトナムの多くの農村家族が被っている貧困は、種々の原因に帰することができる。その内主要なものは、生産に対する資源の不足(土地、資本、労働)、生産ノウハウと経験の不足、病気・事故・自然災害・動植物病害によって引き起こされるリスク、またはギャンブルやアルコール中毒によるものである。
2.1. 生産に対する資源の不足
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土地の不足:土地はそこに住んでいる人々の数に応じて農家に配分されている。しかしながら、多くの世帯が、特にメコンデルタにおいて、彼らの債務返済や納税義務の失敗により部分的または全面的に復帰させられた。注意すべきは、それらの家庭ではしばしば多くの子どもを抱え、健康を損なった女性によって率いられていることである。
その問題に関連し、1995年5月までに、農家の3分の1は土地所有権証明書を付与され、彼らに投資の動機付けをおこなったのであった。
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資本の不足:これは貧困世帯の91.53%にとって貧困の最も重要な原因である。貧困者、特に貧困女性は、抵当となる財産を持たないために、国家貸付プログラムに参加する可能性を持ってこなかった。ベトナム農業銀行からの貸付の10%のみが女性に届いている(注1)。他方、多くの貧困女性は、不作や生産がうまくいかないことによって返済できなくなることを恐れ、あえて銀行から借り入れようとはしてこなかった。
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労働の不足:これは女性(未亡人、別居または離婚)によって率いられている世帯、または戦争傷病兵の家庭、病人の家庭の場合である。Nam
Ha省、Hai Hau県、Hai
Trung村の社会学的調査のケースでは、1993年に独身の女性の40%は食料不足と貧困の下にあった。1989年の統計数字によれば、農村には190万人の若い未亡人がいる。
2.2. 生産ノウハウと経験の不足:低い学歴により、多くの女性、特に少数民族の女性は生産の業務において技術的ノウハウを習得できないできた。さらに、生産ノウハウと経験の大衆化はいまなお、特に山岳と僻地においては、制限されている。
2.3. リスク
病気は貧困家庭にとっては真摯な問題である。彼らの苦境を一層厳しいものとする。これらの家庭では、病気は診療と薬でのお金の支出および家庭の人手の減少による収入の減少を意味する。
旱魃や嵐、洪水のような自然災害は、農業生産が自然条件に全面的に依存している農村の人々の貧困を招く。
注)
1. Allen and Tran Thi Que, 1992
3. 経済活動及び家庭・社会関係における性的平等
近年の経済改革は農家の社会・経済生活において変化をもたらした。1993年の貧富に関する調査は、農村家庭の52.74%がよりよい生活条件を持つようになり、17%が以前より低い生活水準になり、30.26%が同水準にあることを明らかにしている。農村の女性は男性よりも移行過程の重荷をより背負わされているように見受けられる。男性より少ないとはいえ、彼女らがベトナムの現在の経済的変化からいくつかの利益をえているにもかかわらずである。
3.1. 労働と収入
女性は、農村労働力の60%以上を占めており、その傾向は着実に高まり、経済活動における女性によって演じられる不可欠な役割を増大させている。現在、世帯それ自身が基本的生産単位になり、女性は一方では家庭により多くの収入を得る生産的労働として参加し、他方では彼女らの世帯の諸義務を引き続きおこなっている。それ故に、女性は1日12時間というような、より重労働をおこない、農業労働のほとんどをおこなっている。
表1:夫と妻の間での労働分配(注1)
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注)
1. 家族と女性研究センターによって実施された1996年5月〜10月のBac
ThaiとNam Ha省の400世帯の農家の調査
特に貧困家庭と女性が率いる家庭では、女性によって担われている仕事は高い比率を示している。耕耘の40%。田植え、種蒔きの76.5%。作物防除の67%である。
様々な調査は、農村女性は男性と女性労働者より稼ぎが少なく、約65,000ドン/月(女性労働者は164,000ドン/月であるのに対して)であることを示している。彼女たちの1労働日の価値は低く、農作業では5,000〜6,000ドン/日であり、非農作業では3,000ドン/日ぐらいにすぎない。女性の平均賃金は男性より20%〜40%低い。
3.2. 生産資源と技術的ノウハウへの接近
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土地:土地使用権証明書の付与は、しばしば家庭の男性の世帯主の名義になっており、したがって、女性は借り入れのための土地使用権の移転と抵当の権利を与えられていない。女性が率いる貧困世帯では保留地の入札や獲得を通してより多くの土地を得る機会を持たない。その時、他のいくつかの世帯は合作社への債務支払いの失敗により土地を復帰させられている。山岳のいくつかの村では、貧困世帯の約10%が農業用地を持っていない。なぜなら、彼らは他の地方から移住し、地方の住民に土地を返還しなければならないからである。
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資本:貧困女性は、彼女たちの生産を発展させるための銀行から借り入れる機会をほとんど持っていない。なぜなら、彼女たちは抵当にする財産を持っていないからである。他方、優先的条件をもつ国家貸付けは貧困世帯の必要と比較して限られている。1992年、各貧困家庭はわずか115,000ドン(10ドルに相当)を借りることができただけであった。
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技術移転と技術ノウハウ:多くの女性は農業技術の再教育コースに参加できない。なぜなら、彼女たちは時間をやりくりできないからであり(19.3%)、不必要だと思うからであり(7%)、または遠くへ出かけることを望まないからである。
3.3. 家庭における労働分配
夫と妻の間での家族労働の分配は社会における女性の地位と役割を最も明確に表している。
3.1の生産労働に付加して、女性は家事労働(掃除、料理、洗濯など)のほとんど−仕事の総量の89.6%から95.4%を占めている−、子供の世話(約54.9%と37.7%)のを負わされている。資本借り入れ、家計支出の管理などの重要な仕事でも、女性は重要な役割を果たしており、その仕事の65.9%と81.5%を占めている。
女性による生産労働と家事は仕事と時間の献身の両方で彼女たちに多すぎるものとなっている。これにもかかわらず、家庭における重要な問題に対する彼女たちの声は彼女たちの夫より決定的なものではない(44.5%に対して24.4%)。
家族労働の不平等な分配は一面では封建的で保守的な考え−それは女性の仕事であるという−に起因し、一面では社会による家事の低い評価による。
4.
飢餓を一掃し貧困を軽減する運動における国家政策とベトナム婦人連合の役割
飢餓を一掃し貧困を軽減することは、ベトナム政府の重要な社会政策である。1990年以降、それは多くの支部と社会団体の様々なプログラムに結びつけられてきた。例えば、職業斡旋、不毛な土地と露出した丘の再緑化、農村の安全な水の保障、村の健康維持、家族計画、そして農業・林業促進である。全ては積極的な結果をもたらした。飢餓を一掃し貧困を軽減するプログラムは、全国で、県と区の95%、村と街区の91.6%で展開された。それらのプログラムの総資金は、1兆0095億ドンに達し、200万以上の世帯に貸し付けられた。飢餓を一掃し貧困を軽減する地方の基金は4410億ドンに達し、生産と事業の開発のために630,000人に貸し付けられた。貧困に陥っていた世帯の数は1992〜1994年の期間に6%減少した。
国家は、2000年までに貧困世帯の比率を、デルタと都市部で10%以下、少数民族が住む山岳と僻地地方で20%以下にする計画を立てている。
経済活動において女性を援助する観点で、雇用の創出は、社会の富をより多く創り出し、彼女たちの家庭収入を増加させ、貧困家庭の数を減らし、経済活動における平等を達成するのと同様に、必要である。ベトナム婦人連合は、彼女たちの生産・管理技術を向上させることを通じて、女性のためにより多くの仕事を創出することにより実践的な援助をおこなっている。その結果、多くの女性は貧困から脱出することができ、家庭と社会での位置を高めた。連合は、全国的に、生産と事業資本のための女性の需要に見合う様々な国内的・国際的資金源の全面的利用を通じた、「女性グループに対する融資と援助」というモデルを成功裏に打ち立てた。1996年末までに、数兆ドンが動員され、60%を貧困女性が占める1,630,000人の女性に貸し付けられた。さらに、連合は家計を発展させるために女性同士を助け合わせる運動に女性たちを動員した。このキャンペーンを通じて、過去5年以上に渡り、生産と事業開発のために3億ドン近く、そして300万頭以上の肥育豚を助け合った。
5. 結論と推奨
飢餓を一掃し貧困を軽減することは、社会の安定と発展を確実にするための、ベトナムの党と国家の主要な社会政策である。したがって、それを成功裏に実現するために、協調的で同時的な手段と解決策を必要とする。それは、経済的、社会的の両方であり、そして、全てのレベル、支部、そして全住民の参加を必要とする。
さらに、貧困の原因をなくすことに特別な注意が向けられなければならない。それは、資本、生産手段、技術移転の訓練、そして経営上のシステムを強化すること、を含む様々な資源を開発することである。優先は、少数民族が居住する僻地の、遠方の山岳地帯と地区における飢餓を一掃し貧困を軽減することへの資源の開発に向けられなければならない。
飢餓を一掃し貧困を軽減するための政策と方法の実行において、性的要因に注意が支払われるべきである。そうしてのみ、農村の貧困女性が生産資源に接近し、生産ノウハウと能力を高め、そして彼女たちの家族と彼女たち自身の生活条件を改善する機会と条件を与えられるのである。